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名古屋地方裁判所 昭和37年(行)4号 判決 1965年1月18日

原告 宮道佐一

被告 名古屋国税局長

訴訟代理人 水野裕一 外四名

主文

原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は全部原告の負担とする。

事実

(当事者双方の申立)

第一、原告訴訟代理人は

一、被告名古屋国税局長が原告に対し昭和三六年一一月一日付を以てなした原告の昭和三三年度分の譲渡所得税に関する審査決定を取消す。

二、被告豊橋税務署長が原告に対し昭和三五年五月三一日付を以てなした原告の昭和三三年度分の所得税額を金一九六、二五〇円とする旨の決定を取消す。

三、訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決を求めた。

第二、被告ら指定代理人は主文同旨の判決を求めた。

(当事者双方の事実上の主張)

第一、原告の主張

一、被告豊橋税務署長(以下単に被告税務署長と略称する。)は、昭和三五年五月三一日付を以て、原告に対し、昭和三三年度分譲渡所得額を金一、〇二九、三二〇円、算出税額を金一九六、二五〇円とする旨の課税処分をなしたので、原告は同年六月二九日被告税務署長に対し、右課税処分について再調査の請求をしたが、同署長は同年七月二六日付を以て右請求を棄却した。

二、そこで原告は同年八月二〇日被告名古屋国税局長(以上単に被告国税局長と略称する。)に対し、右課税処分につき審査請求をしたところ、被告国税局長は昭和三六年一一月一日付を以て右請求を棄却する旨の決定をなした。

三、しかしながら原告の昭和三三年度中における譲渡所得は皆無であるから、被告税務署長及び被告国税局長の右決定はその認定を誤つたものであつて、いずれも違法なものであるから、その取消を求めるため本訴に及んだものである。

第二、被告らの答弁及び主張

一、原告の主張事実中

(一) 第一、二項は全部認める。

(二) 第三項は争う。

二、本件課税処分の経緯は次のとおりである。

(一) 原告は後記の如き譲渡所得があつたにも拘らず、所得税法第二六条に規定する所得税の確定申告書を被告税務署長に提出しなかつたので、被告税務署長は同法第四四条第四項の規定に基き、後記の如く原告の昭和三三年度分の総所得金額を金一、〇二九、三二〇円、課税総所得金額を金九三九、三〇〇円、所得税額を金一九六、二五〇円と決定した上、昭和三五年五月三一日付を以て、これを原告に通知した。

(二) しかるに原告は、被告税務署長の右課税処分に異議があるとし、同年六月二九日同署長に対して再調査の請求をなしたが、同署長は右請求の全部についてその理由がないとして同年七月二六日付を以てこれを棄却した。

(三) 原告は更に右決定を不服として同年八月二二日被告国税局長に対し、審査請求をしたが、同局長は原告の右請求は全部理由がないとして、昭和三六年一一月一日付を以てこれを棄却する旨の決定をなした。

三、ところで被告税務署長の前記課税処分並に被告国税局長の前記審査決定は、いずれも適法なものである。即ち原告は昭和三三年八月五日その所有に係る愛知県豊川市市田町諏訪林二番地宅地二七八坪(以下単に本件土地と略称する。)を同県豊橋市札木町五六番地訴外東海相互株式会社(以下単に訴外東海相互と略称する。)に対し、金二、二六九、八〇〇円で譲渡した。ところで本件土地は資産再評価法第九条により再評価が行われたものとみなされたものであるから昭和三七年法律第四四号により改正される以前の所得税法第一〇条の四第二項により再評価額を以て取得価額となすべきところ、その再評価額は資産再評価法第二一条第二項によれば、財産税調査時期前に取得したものについてはその財産税評価額を四〇倍した金額とする旨規定されている。而して原告が本件土地を取得したのは財産税調査時期前である昭和一五年一〇月二一日頃であり、財産税法第二五条、第二六条によれば、本件土地の財産税評価額は財産税調査時期における賃貸価格(旧地租法 昭和六年法律第二八号、第八条に規定する賃貸価格をいう)九円九四銭に財産税法第二六条、同法施行規則第一九条及び同規則第二〇条により国税局長が定めた畑についての倍数である四八を乗じたものである。従つて右の計算関係は左のとおりである。

9円94銭(賃貸価格)×48(財産税評価倍数)

=477円(財産税評価額)

477円(財産税評価額)×40(再評価倍数)

=19、080円(再評価額)

そこで結局本件土地の取得価額は金一九、〇八〇円であるので原告の昭和三三年度中における総所得金額(譲渡所得)は金一、〇五〇、三六〇円であり、該所得に対する所得税額は金二〇二、五〇〇円となるが、その詳細は左のとおりである。

本件土地の譲渡による総収入金額 二、二六九、八〇〇円

右土地の取得価額           一九、〇八〇円

差引譲渡所得金額        二、二五〇、七二〇円

課税標準としての譲渡所得金額

(総所金額-所得税法第九条第一項本文、同項第八号)

(2、250、720円-150、000円)×5/10 一、〇五〇、三六〇円

基破控除額              九〇、〇〇〇円

課税総所得金額           九六〇、三〇〇円

(一〇〇円未満切捨)

所得税額              二〇二、五〇〇円

四、よつて被告税務署長が原告に対してなした昭和三三年度分の所得税の課税処分及び被告国税局長が原告に対してなした同年度分の所得税の審査決定は、いずれも右金額の範囲内でなされたものであつて適法であるから、違法の誤りを受けるいわれはない。

第三、被告の主張に対する原告の答弁及び反論

一、被告主張の本件課税処分の経緯は全部認める。

二、原告が被告主張の頃本件土地を訴外東海相互に譲渡したとの点は否認する。

原告は被告主張の頃、被告主張の如く訴外東海相互に対し本件土地を譲渡したことはなく、仮にかかる譲渡契約並びにこれ原因とする本件土地の所有権移転登記手続きがなされているとすれば、それは訴外大森春男が原告の承諾を得ることなく、檀に原告の代理人としてなしたものであつて、かかる譲渡は無効である許りでなく、原告は右土地の譲渡に関して何らの利益をも得ていないのであるから、譲渡行為の存在を前提とする被告税務署長の前記課税処分及び被告国税局長の前記審査決定は違法である。

立証<省略>

理由

本件課税処分の経緯は当事者間に争いがない。

そこで先ず原告が本件土地を訴外東海相互に対して譲渡したかどうかの点について検討する。

成立に争いのない乙第一、三、四号証、証人大森春男、同谷野幸男の各証言とを綜合すれば、訴外大森春男が昭和三二年五月七日頃訴外東海相互から弁済期を同年一一月七日として金一、二〇〇、〇〇〇円を借り受けたが、その際原告は、当時宗教上の関係で親密な間柄にあつた右大森春男の懇請を容れ、同人の右債務を担保するため、原告所有の本件土地につき、前記東海相互に対して抵当権を設定すると共に、右東海相互との間に右大森春男が前記債務を弁済期までに支払わないときは、本件土地の所有権が右東海相互に移転する旨の所謂停止条件附代物弁済契約を締結したこと、しかるに右大森春男は前記債務を弁済期までに支払わなかつた許りでなく、訴外東海相互が昭和三三年二月四日頃、右大森春男に対する前記債務の弁済期を約六ケ月延期すると共に、右惜入金の利息を含めた金六〇〇、〇〇〇円を原告において借り受けることとし、右債務についても前記同様本件土地の停止条件附代物弁済契約を締結したけれども、原告及び右大森春男は、いずれも前記各債務を弁済期までに支払わなかつたので訴外東海相互において、昭和三三年八月六日本件土地につき所有権移転登記手続を了したことが夫々認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果は措信しない。

更に、豊橋税務署長作成部分についてはその成立につき当事者間に争いなく、鈴木九兵作成部分については証人鈴木芳久の証言により真正に成立したことが認められる乙第二号証と証人鈴木芳久の証言によれば、本件土地につき訴外東海相互に対して所有権移転登記手続がなされた際の債務額の合計は金二、二六九、八〇〇円であり、結局本件土地は右価額を以つて原告から訴外東海相互に譲渡されたものであることを認めることが出来、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

してみれば、本件土地は所有権移転登記手続のなされた昭和三三年八月六日原告と訴外東海相互間の前記停止条件附代物弁済契約に基き原告から右東海相互に対し金二、二六九、八〇〇円の価額を以て譲渡されたものというべきである。

ところで本件土地の取得価額であるが、本件土地は資産再評価法第九条により再評価が行われたものとみなされたものであるから昭和三七年法律第四四号により改正される以前の所得税法第一〇条の四第二項により再評価額を以て取得価額となすべきである。そして、その再評価額は資産再評価法第二一条第二項によれば、財産税調査時期前に取得したものについてはその財産税評価額を四〇倍した金額とする旨規定されており、成立に争いのない乙第一号証によれば、原告が本件土地を取得したのは財産税調査時期前である昭和一五年一〇月二一日頃であり、財産税法第二五条第二六条によれば、財産税評価額は財産税調査時期における賃貸価格(旧地租法 昭和六年法律第二八号 第八条に規定する賃貸価格をいう。)に財産税法第二六条、同法施行規則第一九条、第二〇条により国税局長が定めた畑についての一定の倍数を乗じたものであるところ、成立に争いのない乙第五号証の一、二、三によれば本件土地の財産税調査時期における賃貸価格は九円九四銭でありまた成立に争いのない乙第六号証の一、二、三によれば国税局長が定めた畑についての財産税評価倍数は四八であることが夫々認められ、右認定に反する証拠はない。

従つて右の計算関係を示すと左のとおりである。

9円94銭(賃貸価格)×48(財産税評価倍数)

=477円(財産税評価額)

477円(財産税評価額)×40(再評価倍数)

=19、080円(再評価額)

それ故本件土地の取得価格は右に示したように金一九、〇八〇円であるから、所得税法第九条第一項本文、同項第八号によれば課税標準としての譲渡所得金額(総所得金額)は

(2、250、720-150、000)×5/10

の数式により、金一、〇五〇、三六〇円となる。そして、昭和三七年法律第四四号により改正される以前の所得税法第一二条に則り、右金額から基破控除額金九〇、〇〇〇円を差引いた上、一〇〇円未満の端数を切捨てると(昭和三七年法律第六七号によつて改正される以前の「国等の債権債務等の金額の端数計算に関する法律」第五条参照)課税総所得金額は金九六〇、三〇〇円となり之についての所得税額は、昭和三四年法律第七九号により改正される以前の所得税法第一五条第一項所定の簡易税額表により、金二〇二、五〇〇円とかる。結局原告の昭和三三年度における所得税額を金一九六、二五〇円と認定してなした被告税務署長の本件課税処分は、前記所得税額の範囲内でなしたこととなるから適法であり、これを維持した被告国税局長の審査決定も亦、適法なものであつたことに帰する。

よつて原告の被告等に対する本訴請求はその理由がないものとしていずれもこれを棄却することとし、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 奥村義雄 堅山真一 泉山禎治)

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